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Kさん夫妻のこと [田舎のこと・母のこと]

僕は、山形のうちの隣に住むKさん夫妻が好きだ。
どちらも70歳前後かと思う。
何度かしか伺ったことがないが、玄関先に顔を出すと
「お、お、よぐきたよぐきた。まず、あがれあがれ」
といって、居間にあがらせる。で、午後だったりすると
「まず、いいごで、いっぺえ、いぐべ」
といって、ビールから純米酒まで。

それはさておき、ひょっとしたら内緒かもしれないが、Kさんは実は山伏だ。
それで、山伏修行のときの様子を話してくれる。たとえば真夜中に炭火に唐辛子をたかれて燻しだされる・・・。それはいつも何気なく吸っている空気のありがたさを知るための修業だとか。燻される様子がおかしいのだがうまく伝えられないので割愛。
以前、奥さんの方はだいぶ体が弱かったらしい。Kさんがいうには
「いやあ、体がよわぇがったがらよ、なんじょがしてけんなねなあど思ってよ、そして、山伏の修業さいぐべってさそったごで。そんで、3年ぐれだげ、いったごで。そしたらよ、それがら体が頑丈になってよ。いやあ、いがったな、あれは」
「んだな、あれがら体いぐなってよ。それまでほんとうに大変だったなよ。いぐなったさね。そしていぐなったらばあどは燻されんななのやんだがらいがねごでは」
と言って奥さんはけたけたと歯茎を出して笑う。

あるときは、ちょっと飲んでから、
「んじゃ先生、これがら飲みさいぐべ。いいべ、かあちゃん、「イエライシャン」さ行ってきていいべ。おっぱいどがさわったりしねがらよ、なあ、いいべ」僕のことを先生という。これだけは困る。
奥さんはしかたなく運転手をさせられて僕らを町まで送って、買い物をして時間をつぶしてまた迎えにくる。
そのあいだKさんは水割りを飲んで北島三郎の「山」を右手の拳に力をいれて熱唱した。それから店の女の子となにかデュエットした。
お店の女の子は中国からいきなりこの田舎に来て日本語を覚えたということで、中国人が話すあの感じで山形県東置賜地方の方言になる。
「Kさん、水割りつぐる、だごで」
こんな感じだが、書いている僕もだんだん訳が分からなくなる。
帰りの車の中で、僕は奥さんに
「あのよ、Kさんがよ、おっぱいどがふとももどがよ、一回もさわんねがったっけな。おれよ、ちょんと見ったけがんな」と証言する。ふとももが追加されたのは「イエライシャン」だけあって深いスリットのチャイナドレスだったせい。

Kさん夫妻を見ていて「家」を思う。ダンナは大黒柱。表側に見えて、それはそれでしっかりと家を支えている。奥さんは「梁」(はり)だとおもう。天井裏にあって目にはつかないけれど柱よりも太く長くどっしりとしている。柱が支えているわけでもなく梁が支えているわけでもなく、柱と梁が支え合っている。
二人を見ていて、お互いを大切に思いながら支え合っている感じが伝わって、素敵だと思う。
母の遺作展にも二人してきてくれた。母の思い出話を聞かせてもらった。ありがたいと思う。

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