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卒業の頃に・・・(5)「なんとかします」 [学生の頃のこと]

筆記試験は終わった。言わずもがな惨憺たるものだった。
次の日の面接。とにかく大きな声で。これだけを意識していた。小学校に入ったばかりの頃によくいわれそうなことだ。
面接でリラックスできて自分らしくなどいられる人はあまりいないのだろうが、準備不足の僕はなおのこと緊張していた。
前の人が出てきて、「次の人を呼んでくださいと言われたので」と僕に告げる。
会場は釧路市内の高校を借りて、その教室のひとつでおこなわれていた。
深呼吸をひとつして、教室のドアをノックする。遠くでどうぞという声。
最初が肝心。ガラガラガラとドアを開け、
「失礼します!!!」
と大きな声で言って、深く一礼をした。

面接の間僕はずっと緊張していたし、よく覚えてはいない。ひとつだけ覚えていることがあって、面接官がこんな質問をした。
「生徒がトイレでたばこを吸っているのを見つけた。そのうえ、・・・・・というような状況だったら、どのように指導しますか」トイレでたばこ、ならよくありそうなことだ。「・・・・・」のもう一つの条件を忘れてしまったが、何かちょっとひねった条件だった。とにかくそれはちょっと頭をひねってしまうような条件だった。
しばらく僕は考えた。僕には難しすぎた。これという案は思いつかなかった。どうしようもなかった。汗ばんだ両の拳を膝の上に固く握ったまま僕は答えた。
「すいません、今の僕にはわかりません。でも、なんとかします。なんとかします。なんとかします。」
と、答えになっていないその答えを、僕は答えた。わからないものはわからないし、なんとかしなければならないのだから、なんとかする。その時の僕の正直な気持ちだった。

カメラマンをしていると、担当の人からこんなことを言われることがままある。
「今日予定していた・・・がだめになっちゃって。撮影どうにかなりますかね?」
「今日は生憎こんな天気になっちゃって、どうにかなりますかね?」
僕は、
「どうにかします」と。
担当の人は「どうにかしてください」といっていて、そして、どうにかするのが仕事なのだから。たとえば紀行もの(地方取材)の雑誌の仕事であれば、天気が悪いからといってそのページを空白にするわけにはいかない。どうにかしなければならない。取材の現場ではそんなことばかりだ。
学校でもそうだろうと思う。生徒全てが全く問題ないなどということはなく、いろんな生徒がいて、学業でも生活でも様々な問題が起きる、そして教師は「どうにかしなければならない」のだ。
教師として給料をもらうということは既得権益ではない。「やることはしっかりと公正にやってください。いろんなことがあるでしょうがどうにかしてください」そのかわりといってはなんだが、「生活の心配はしなくていいようにしましょう」というだけのあたりまえのことだ。学生の頃からそう思っていた。もちろん今もそう思っているが、フリーのカメラマンなどやって霞を食べたりなどしてくると、本当に心からそう思う。

話がそれてしまった。
会場になっている市内の高校の教室、その面接室を出ると、順番待ちをしていたTがまわりに遠慮した小さな声で
「なおとし、声、大きすぎなかったか。教室の外までびんびん響いてきたぞ」
と話しかけてきた。そうか大きかったか、と応えたが、そうかそんなに聞こえるほど大きい声だったか、それだったらよかった、と思った。
正直に答えること、大きな声で答えること、これくらいしかできないのだから。背伸びしたところで、面接官にはつま先もよく見えているだろうし。

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