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Aスタジオ顛末記9〜くさやスナックでカラオケを歌う〜 [カメラマンになる周辺など]

そういえばこんなロケに行ったことがあったことを思い出したので、今頃だけれども書き足そうと思う。
Aスタジオを御用達にしてくれていた大御所のカメラマンIさんの仕事だった。もちろんアシスタントもいるが、Aスタジオからもロケアシスタントとして2人いった。
新聞の全面広告用の撮影で、撮影するものはフロッピーを入れる特殊な紙でできたケース。それを300枚くらい割り箸で立ててドミノ倒しのように並べ撮影するというものだった。
ロケ地に選ばれたのが三宅島だった。火山が噴火してできた一面が礫の丘陵。そのさまが、SF映画の火星の風景に使われそうな、そんな日本離れしているというより地球離れしている、そんな風景のところがロケ地だった。

島に行って探しに探してどうにか撮影場所が決まると、イントレを2段に組んだ上で大判カメラのアングルを決めた。次に割り箸を刺せるように準備している僕たちに、Iさんがハンドマイクを口にして「もっとも右、もうちょっと」だとかの指示をして、それに従って延々と割り箸を突き刺して紙のケースを立てていった。
初日はそんなことをしながらIさんがめどが立ったと思ったところまでやって、マークキングをしながら割り箸を抜いた。そして、イントレをがっちりと固定して、三脚の石突きの位置などもにマーキングをしておわりになった。

その晩は、連れだって飲みに行くことになった。宿の人に聞いたには、島にはスナックが2軒あるということで、だいたいの場所も聞いて、それで適当にどちらかに行くことにして出かけた。
一軒のスナックにはいりテーブルに着くと、島生まれだろう愛想のいいお姉さんが皆におしぼりをくばってくれた。
手渡されたおしぼりで手を拭くと、・・・ちょっとこのおしぼり臭くない?と心の中で眉間に少し皺が寄った。
これって、何の匂いだったかなと鼻を近づけてもう一度匂いをかいだ。そう、くさやの匂いだ。ここ、くさやの産地だからね。でも、どうしておしぼりに匂いがつくかね。好きな人にはたまらないらしいこの匂い、ぼくはかなり苦手な方だと思う。手にもくさやのにおいが移った。
ビールやらおつまみやらをオーダーして、まず出てきたお通しは、これまたくさやだった。
スナックといっても女性が同席してお話しするということもないスナックで、お酒の出る喫茶店が夜もやっているといった程度の健全性だった。
はじめのビールが終わるとウイスキーになり、年功序列、僕が水割り作りに励んだ。近頃はどうなのかわからないが、当時はきっちりと年功序列の残っているカメラマンの世界、上からの指示命令は絶対的なものがある。
水割りをみんなに作ってはちびちびグラスを口に運んでいた。
そのうち酔いも回って、みんなはマイクを握ってはそれぞれにはやり歌を歌い出した。体をくねらせて声を振り絞ってのりのりに歌い始める先輩もいた。
Iさんがふいにこう言った。
「おい、すとうも何か歌え」
ぎく。僕は応えた。
「僕、本当に下手ですから、勘弁してください・・・」
一応食いさがってみた。Iさんは
「いいから歌え」
がっくり。すとう、
「・・・はい」

仕方ないから歌本で何か選んで歌った。途中まで歌ったあたりで、スタッフとしゃべっていたIさんは言った。
「すとう、もういいから」
すとう
「・・・」
だからへただって言ったのに・・・。
ちなみに、それ以来いちどもカラオケで歌ったことはない、と思う。心理学の用語でトラウマという。


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