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Aスタジオ顛末記10〜キャベツの千切りが得意なわけ〜 [カメラマンになる周辺など]

Aスタジオにはこのようなことを知らないで入ってしまったのだが、年功序列で一番下が、つまり一番後に入った者が食事を作らなければならなかった。これを知ったときこころから「失敗した」と思った。こころから失敗したと思ったことは、その後もたくさんでてくるので、振り返れば、まあ序の序の口といったところだが。
それまでは、大学のひとり暮らしで野菜炒めとかカレーライスとかは作ったりしていたが、他の人の口に入るものを作らなければならないとなると意味が違う。
Aスタジオには高校・専門学校・大学などを卒業してやってくるのがほとんどだった。僕が入った当時でそんな若い連中が10人ほどいた。僕らは一日中よく身体を動かしていたから、とにかく腹が減る。それに楽しみといったら食べることくらいしかないから、どうしても食うことにはうるさくなってくる。
Aスタジオの食事は一日2回、朝飯と晩飯。朝から掃除をしたりロケに出たり、もちろんスタジオでの撮影があったりだから、ブランチの時間の朝飯は作り置きしておいて、手の空いた者から各自で摂ることになる。晩飯は、スタジオに入っているのは仕方がないとして、スタジオマンがみんな一緒に摂っていた。
僕が入ったときのチーフは、人一倍味にはうるさかった。今にして思えば、写真を撮る人として大切なことをたくさん学ばせてもらったと思うが、その頃はまだまだそうは思えなかった。

先輩に食事の段取りは一応教わり、それに、料理の本も何冊か置いてあったので、それを見ながらどうにかこうにか作ることになる。これも仕事と一生懸命作った。
金曜の夜はカレーライス、火曜日の夜はトンカツと決まっていた。メニューを決めるのも一苦労なので、これが決まっているだけでもありがたかった。
そんな生活のまだ間もない頃、トンカツの食事の時にチーフが不機嫌な顔をして、キャベツの千切りを箸でつまんで言った。
「誰だ、この千切り切ったのは」
「ぼ、僕ですが・・・」(ストウ、おずおず答える)
「馬の餌じゃねえんだぞ!!!」
チーフは吐き捨てるように言って、箸に取ったキャベツを皿に投げつけて戻した。
たしかに、いわゆる千切りの幅の20倍はあった。というか、それを千切りとは言わない。
それでも、俺は一生懸命作ったのにそんな言いかたってないだろう・・・と思うと、悔しさと悲しさでいっぱいになったが、
「すいません」
と一言言って、とにかく耐えた。ちきしょう!と思ったが耐えた。

料理のことなのでついでに書くと・・・
あるときご飯にグリンピースを混ぜて炊き込んだ豆ご飯を作ったことがあった。
チーフは、茶碗から箸でグリンピースをつまみ上げ、また吐き捨てるように
「俺はこれが大きれえーなんだよ」
と聞こえよがしに言って、グリンピースを一つひとつ箸でつまんでは取り出して全部捨てた。
ちきしょう一生懸命作ったんだぞと思いながら、その時も耐えた。

僕の一番下生活は、途中いろいろあったものの、一年くらい続いた。食事作りは、すぐ上の先輩が手伝ってくれたりしたこともあった。それに、おいおいと僕もロケアシスタントに出たり泊まりの仕事もあったので、そういうときはほかの先輩が作ったが、それ以外は、一年間も毎週毎週トンカツあげたり千切りを切ったりしていた訳だ。台所に立って千切りをするたびに、ちきしょう!と思いながら。

スタジオ生活にもすっかり慣れたころのあるトンカツの晩、チーフが千切りをつまんだ。そして、また言った。
「誰だ、今日の千切り切ったのは」
「僕ですが」(ストウ、普通に答える)
何を言い出すのかと思う。この晩飯何か問題あるわけ?と思う。
「この千切り、98点だな、・・・いや、100点だな」
と言った。
おれ、別に料理を勉強しに来たわけじゃないし、100点もらってもな、だいたい点数付けられる筋合いじゃないしと思いながらも、
「ありがとうございます」
と答える。

その頃は、普通に千切りができるようになっていたので、もうどうでもよかった。
キャベツの千切りがかなり得意なのは、そんなわけだった。
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