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川崎の庭師と枯れすすき [いろいろ思うこと]

「昭和枯れすすき」のことを考えていたら、川崎で庭師をやっているK君のことを思い出した。
枯れすすきに興味はないのだが、YouTubeで僕の大好きなちあきなおみを聞いていたら、彼女がこの曲を歌っているのを見つけてしまい、ファンとしてはついつい聞いてしまった。

♪ 貧しさに負けた〜
  いえ、世間に負けた〜

彼女が歌うと、ちょっとリアルで怖いのでお勧めはしない。まあそれはさておき、この歌詞、どうしてだろう、すっきりこないなあと思っていた。この二人はいつも「戦う」ことをしてきたのだという感じが、僕にはすっきりと受け入れられないのかなと思う。「負けた」というのは「世間と戦ってきて」「負けた」ということなのだろうか。この二人にとっては「世間と戦う」というのはどういうことだろうか、などと考えてしまった。
僕自身のことを振り返って、たしかにスタジオマン時代には、ちきしょう負けてたまるか、と思ってやってきた。そう思ってくじけないようにと頑張ってやってきた。だからといってそれは、そのスタジオマンの仲間をけ落とすことではなかった。自分がカメラマンになりたいと思って、そのステップとしてスタジオマンになって、なりたいと思ったカメラマンにならずにこのまま途中でやめて田舎に帰ったら人生悔しすぎると、僕は思ったから。だからちきしょう負けてたまるか、とやってきただけだ。
独立してからは、もちろん編集部を回ったりなどの営業はしたが、しかし、それは雑誌や広告を作る人にひとつの選択肢を提示しただけであって、つまり僕を使う側の選択の問題でしかない。同じトマトでも、この料理にはこの品種のトマトがいいとか、サラダにはミニトマトとか、煮込むから安くて量があるのがいいとか、料理する側が選ぶ。トマトは料理人を選ばない。トマトにとって大切なのは、こうなりたいと思ったトマト自体になること。そうすれば料理人が適所に使ってくれると思っている。さまざまな事々は自分自身のありようの問題ではないかと感じている。そういう意味では自分の中での葛藤はあったし、それを戦うという言葉を使おうと思えば、自分自身と戦ってきたといえなくもない。好きな言い方ではないが。

東京にいる頃に、「友達がカメラマンになりたいって言うんですけど、話聞いてもらえませんか」
という相談をよく受けた。カメラマンになりたいという人が、世の中にはたくさんいるものだと思ったことがあった。あるとき、年下の友達のK君から電話がきて、庭師(植木職人といった方が良いのか)として独立することになったので、フリーとしてのやってゆくにあたってのアドバイスが欲しいということだった。アドバイスは別としても、久しぶりに奥さんと一緒に家に来てもらってみんなで晩飯を食うことにした。
アドバイスといわれてもなあ、電話のあと僕は考えてしまった。フリーとしての心構えか、なんだろうね、いったい。僕自身考えさせられる。僕自身はフリーとして何を大事にして、何を信条(もしそんなものがあったらだが)にしてやってきたのだろうか。

やってきたK君夫妻と久しぶりの会食。何年かぶりだったと思うけれど、ビールやワインのグラスをななめにしたり縦にしたり逆さまにしたり、箸を持ったり置いたりしながら、そうそうこいつのこの真っ直ぐな感じがいいんだよな、と久しぶりにK君を感じる。
K君はときおり独立してやってゆく不安を語った。フリーという個人商店を開業する不安。自分はいったいやってゆけるのだろうか。この道を通るとき、僕もそうだったが少なからぬ人がそう思うのだろう。そうしたときに、彼自身の中ですっと腑に落ちるような言葉が、そんな何かよすがにできるような言葉がK君は欲しかった。毎日使う鍋のようにいつもの棚にあって、はいと出せればよかったのだろうと思うが、あいにく僕は探しあぐねていた。

僕は、なんとなくではあるけど、そりゃあいろいろあるだろうけど、K君は庭師としてやってゆけるよ、と感じていた。
人は人の何を見てそう思ったりするのか、僕は知らない。ただ、彼を見ていて改めてこの真っ直ぐな感じとか実直な感じとかそういったものがいいんだよな、と思う。誠実という言葉がぴったりくる感じがする。きっと一回一回の仕事を、K君は誠実にやってゆくのだろうと思う。そういうことを人は厳しく見て感じ、何かを選択しているのだろう。自分の大事な庭を、どういう人に手入れして欲しいだろうか。それはカメラマンにとっても全く同じなのだろう。もちろん、どちらにしても技術があってのことだが。青いままのトマトは残念ながら食えないから。

ビリー・ジョエルは

♪「誠実」なんとむなしい言葉
    誰もが嘘を重ねる ・・・        ※

と歌った。誠実であること。僕は思う。なんと心豊かなことか。
チベットで出会ったある農夫と家族を思い出す。麦の刈り入れ作業をしている昼休みだった。農夫と奥さんと二人の子供とおばあちゃん。ぽっかりと白い雲の浮かぶ青い空の下、高く積み上げた麦の穂を背にして、マントウ(饅頭)とバター茶でお昼を摂りながらなんということもなく楽しそうにしていた。幸せを絵に描いたような風景だった。そのとき彼らを見ながら、ああこんなふうな心持ちで生きたいと思った。農夫の日々の生活は日々の生き方ありようを写し出す。大地は嘘を聞き入れない。春に耕して暑い夏に毎日汗を流しそして秋に収穫するように、それを生き続けるのは決して楽ではないのだろう。収穫するまでに長い時間がかかるように、「誠実」が実るのにも長い時間がかかるのだと思う。
対義語は知らないが、たとえば「虚偽」という言葉からはお金持ちになったときの杜子春にたかる人々が思い浮かぶ。なんと空虚で孤独な風景であることか。

今年の初め頃にK君夫妻を含めその仲間で会ったとき、彼は
「厳しいですけど、どうにかやってます・・・」
といっていた。今時たいがいのことは厳しい。

そこで、枯れすすき夫妻のことに戻る。生き方はみんな違っていていいわけで、こうして世間と戦うことを否定しているのではなくて、みんな好きなように生きたらいいと、本当にそう思う。それにこの枯れすすき夫妻を、誠実でなかったなどというつもりもない。この二人は二人なりの誠実さでやってきたのだろう。どうしてもうまくいかないとき、人にはそんな致し方ないときもあると思う。ただK君の生きているベクトルの方向とは、あまり近くはないかも知れない。
自分自身のことはよく見えない。秋に収穫できるような生き方をしていられたら幸いだと思う。


 






<おまけコーナー・You Tubeちあきなおみの曲ランキング!>
ちあきなおみのことはかならず書こう、いずれ書きたい、ひょっとしたら書くかも知れない、と思っているけれどもいつのことやらなので、勝手におすすめを。

☆ビギナーがとりあえず一曲は、やっぱりこれかな・・・
「喝采」
http://www.youtube.com/watch?v=wk3Q3XxLjkU&feature=related
☆聞いて楽しくはないけど、ちょっと凄味のあるところでは・・・
「朝日楼(朝日の当たる家)」
http://www.youtube.com/watch?v=wsE2NsWnGqs&feature=related
☆ファドに傾倒していたちあきなおみ、女の情念を歌いあげます!!!
「霧笛」
http://www.youtube.com/watch?v=fwU_K2EX6eE&playnext=1&list=PLC08355575CA9F1F2
☆ちあきなおみの本領を堪能するには(好き嫌いが激しいことが予想されるけど)・・・
「ねぇあんた」
http://www.youtube.com/watch?v=z2pJk7fvkbs&feature=related
☆個人的に好きな曲としては、ちょっと月並みですが(って知りませんかね)・・・
「黄昏のビギン」
http://www.youtube.com/watch?v=VcsDsOEU3B0&feature=related
☆ノスタルジックななんか切ない雰囲気のこんなのはどうでしょう・・・
「祭りの花を買いに行く」
http://www.youtube.com/watch?v=d_Nw3gEjwv4&feature=related
☆おまけのおまけ「タンスにゴンのCM ちあきなおみ×美川憲一」
http://www.youtube.com/watch?v=VhPrY9zU48c&feature=related
(「昭和枯れすすき」選外)



※ Billy Joel の「Honesty」たまたま僕が見たものでは誠実と訳してあったので、そのまま誠実と。

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