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海外ひとり旅の事件簿(7)カイロのレシート偽造屋 2/2 [旅のこと]

で、その偽造屋がホテルに戻るのを待って、彼の部屋に相談に行くと……

額面はいくらでもいいから銀行で両替をしてそのレシートを持ってくるように、偽造の料金は書き込む額面の何パーセントと決めてある、ということだった。
書き込む額面を決めるために、まず、安いフライトを探さなければならない。今ならネットで検索をするのだろうが、当時は一軒一軒旅行代理店をあたるしかなかった。
数件ほど聞いてゆくと、料金はどこもほとんど同じようなものだった。しかし、一店だけ特に安い旅行代理店があった。他店と比べて格安というわけではなかったが、安かった。どうしてその代理店だけが安くできるのだろうと考えると、僕はちょっとしっくりこないものがあって、それでだいぶしっかりと間違いないか確かめた。代理店の人は満面の笑顔で間違いないという。
そのチケットを予約して、10ドルほどだったろう、銀行で両替をしてレシートを偽造屋の彼の所に持って行った。そして、その安いチケットを買うのにちょうどいい分の額面で偽造を頼んだのだった。

数日後に偽造のレシートを取りに行き、偽造屋に支払いをした。偽造屋はアラビア語が堪能なのだろう、きれいな(たぶん、きれいな)アラビア文字で書き直されたレシートを僕にくれた。
次の日、早速そのレシートを持って、チケットを受け取りに代理店にいった。
そして僕は無事に日本までの帰りのチケットを手に入れた。

数日後、観光とショッピング(自分にはなんと似合わない響き!)から安宿に戻ってレセプションに行こうとすると、レセプションでオヤジが、きつくネクタイをした身なりのしっかりした男二人に「彼だ」といった、ようだった。
そして、二人はレセプションで鍵を受け取ろうとする僕を呼び止めた。
汗をだらだらかいて帰ってきたから、それ以上に汗が出たのかどうかはわからない。ひょっとしたら、汗が引いてしまったのかもしれなかった。覚えていない。この異国でいったいどうなってしまうのだろうと思うと、心臓がばくばくした。ばくばくしているのに生きた気がしないのは不思議だ。
この国では、拘留されるのだろうか。それなりの額のバクシーシ(袖の下)で済まそうとするのだろうか、それともそれ以上のことが起こるのだろうか。

「エジプトエアーの者ですが……」
といわれ、どういうことが起こるのかわからなかった。少なくとも僕が確信したポリスではなかったのは救われた感じだ。しかし、悪い知らせには違いない。
スパイ感たっぷりの二人の話はこうだ。
あの旅行代理店で発行したあなたのチケットは、代理店の間違いで無効なものなので、プラスいくらいくらを支払ってほしい、ということだった。
どうりで安かったわけだ。
ちょっとだけほっとしながらも、オー・マイ・ブッダ!!!とかおおげさに驚いたふりをしたあげく、それは僕の責任ではないし、代理店が支払うべきではないのか、とかとか、スパイの二人に食ってかかったように思う。
こういうのを、盗っ人猛々しいというのだろう。……すいませんでした。
エジプトエアーの人が言うには、どうしてもプラスいくらいくらのバンクレシートが必要なのだと。
聞いていると、決まりである以上きっとそれを出さないことには、彼らとしてもどうにもならないのだろうと思えた。
で僕は、被害者感たっぷりな感じで折れた。そして、内心助かったと思った。
そして、また偽造屋に行かなければならなかった。

偽造屋にはなんと言ったか覚えていないが、代理店の間違いで被害を被ってしまって、追加で偽造をお願いしたい、ということを言ったのだろう。代理店の間違いというのは、それは嘘ではなかったし。
で、偽造屋の兄さんの所に書き直されたバンクレシートを受け取りに行くと、兄さんは、大変だったね、お金はいいよ、と言ってくれた。
この偽造屋の兄さん、なんだかいい人だなあと思うと、じ~んときた。

で、この2枚目のバンクレシートを持って、今度はエジプトエアーの本社ビルのカウンターに行った。スパイのようにして安ホテルに来た彼が出てきて、今回はいろいろ申し訳なかった、というようなことを言った。そして、バンクレシートを受け取って手続きを始めた。
彼はチケットを持ってカウンターに戻ってきた。いまとなっては存在しない昔ながらの赤いカーボンの複写式のエアーチケット。彼はチケットを僕に渡しながら、確認してくださいといい、それから、他に私にできることはないですか、と日本語に訳すと変だがそんなことを笑顔で言った。チケットは今度こそ完璧だったし、スパイにお願いすることは他になかった。
アイコンタクトで、お金はいいですよ、というとがわかったし、むしろ、他に人がいるここでは口に出してはいけない、ということもわかった。
なんだか、このスパイもいいやつ~。

というわけで、どうにか帰国の途についたのでした。
ついでのおまけに、……
帰国当日、ほぼ満席のエジプトエアーに乗った。
思い起こせば、この旅の最初は日本からバンコック行きのエジプトエアーに乗る予定だった。ところが、その飛行機が機体不良のために一日遅れるということになったのだった。バンコックからの乗り継ぎはインディアンエアー(エアーインディアかな?)だったから、いろいろな融通が利かず、成田のあのだだっ広い中をあっちこっちに行って、どうにかインディアンエアー(?)を一週間後の便にずらしてもらったのだった。(それで、エジプトエアーのNさんにとってもお世話になることになった。これもある意味事件かもしれないので、後日書く機会があるかもしれない。ないかもしれない)
思えば、それが旅の始まりだった……。

で、窓際の座席に着くと、どうもリラックスすぎる。で、おかしいなと思ってリクライニングが倒れていることに気がついた。直そうと思っても直らない。壊れていた。
スチュワーデス(当時のいいかた)にその旨をいうと、たぶんエジプト人の彼女は
「大丈夫、大丈夫」
と白い歯を見せていう。
大丈夫じゃないと思うけど。
彼女がそう言うのだからとそのまま乗ったが、実際離着陸のときはちょっと違和感があった。それで、インドネシアだったろうか、クルーが入れ替わって、離陸前の点検。
で、スチュワーデスが
「リクライニング直しなさい!」
と怒る。
まったく!!と思う。(沖縄の人だったら「だからよ」というのがぴったりなところ)
エジプトエアーにはいろいろお世話になりましたよ。
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