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みずうみコレクション(3)ガンジス川 [旅のこと]

初めての海外がインドというのは、カレーを食べたことのない人が、いきなり激辛10倍カレーを注文するようなものかもしれない。

インド、ベンガル地方の「軽かった」といっていたところが、いつの間にか今は「凝る肩」になっていたが、そこからワーラーナシー(バラナシ、ベナレス、と当時はいっていた)に電車で行き、そこ、バラナシにあった日本人宿に部屋をとった。
その宿はネズミも出たし、何かが特に良かったわけではない。しいて言えば女将さんが日本人で、日本人しか宿泊しないので、比較的治安がよかった。
その3,4階建てのだいぶ年老いたコンクリートの建物は、ガンジス川沿いに、まさに川に面して建っていた。乾季であれば川の水かさも引き、ガートとよばれる沐浴のための川岸の階段がむき出しになるのだろうが、泊まっていたときは、水位が高く建物の真下まで、ホテルを飲み込むようにガンジス川が迫っていた。
ホテルの最上階にあった食事の間の窓から眼下からガンジス川を見下ろすことができた。
日本では、川上から流れてくるものといえば、大方想像がつく。希有なものとしては大きな桃があるが、実際に見た人には出会ったことはない。ガンジス川では、浮くものでお金にならないものが流れてきた。
時折死体が流れ下ってきた。
うつぶせの男の、男とわかったのは睾丸もソフトボールほどに膨らんでいたからだったが、腹部ばかりではなく全体ががぱんぱんにふくれあがって、顔を水面に埋めたまま、それから両腕も力なく頭の脇に放り投げてあった。
その男は、ちょっとした川の流れの具合でホテルにまとわりつくようにして、少し頭の向きなどを変えながら、いつまでもよどみの中にいた。
食事の間から、僕はしばらく青黒く膨らんだ男を見ていた。

泊まっていたある日、釣り竿それからテグスに針を持っていることを思い出した。
道具を持って川岸に出てはみたものの、どんな仕掛けだったかも覚えていなかったし、だいたい、餌もなかった。
と、ちょうどそこに木製の小舟が漁から戻ってきた。舳先の方に乗っていたじいさんに道具を見せて、どうしたらいいか聞いた。
じいさんは、釣り竿を一瞬いぶかしく見はしたものの、そこは漁師でどれどれと仕掛けを作って、最後に船底に飼っていたのか寄生していたのか、生きたゴキブリを取り出して針につけ、その辺に放り込んだ。
あっという間に釣れた。
のは、大きなナマズだった。
じいさんはそれをくれたので、ホテルに持って帰って日本人の女将さんにやった。
女将さんは、
「カレーにしようかしらね」といってもらった。
宿の食事にするほどの量はないので、宿泊客には出なかった。
台所近くを僕が通りかかったときに、ナマズのカレーを作ったから食べないかといわれた。
僕はもらわなかった。


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